女形の豪華絢爛衣裳

歌舞伎の女形の衣裳には、立役のものよりもさらに豪華で素晴らしいデザインのものが多くあります。

武家の女性

女性の衣裳も、男性と同じく武家と町人に大別されますが、さらにそこに廓という特殊な世界が加わってきます。武家では、高い位の女性であればだいたい無地の着付に豪華で重厚な裲襠を着ます。目にも鮮やかな刺繍がほどこされています。

腰元クラスになると、鴇色(ピンク)か納戸(薄い藍色)の無地の着付に帯を立矢の字に結んでいます。矢絣の衣裳も着ますが、これは外出のときのみです。

赤姫と町娘

豪華なのは、「赤姫」と呼ばれる高貴な家のお嬢様の衣裳です。
真っ赤な縮緬か綸子の地に金銀の糸を織りまぜて、花鳥や流木などを刺繍した振袖に同じような裲襠を着て、織物の帯を振下げに結んだその姿が、まさにこの世の華であり、見た目にも真っ赤なところから赤姫と総称されています。「本朝廿四孝」の八重垣姫、「鎌倉三代記」の時姫などがこれを着ています。

対して、町娘は黄八丈の振袖に黒衿というのが通り相場になっています。

下級武士・浪人・農民

下級武士や浪人、農民の女房などが着る石持は、カラフルな赤姫とは対照的なモノトーンで、色もくすんだものを使い、帯は黒繻子の丸帯です。「寺子屋」の戸浪や「吃又」のお徳などがこれを着ていますが、家紋が入っておらず、ただ白くなっているのが特徴です。

さらに貧しくなると、肩入という、肩や袖に別布でつぎをしてある衣裳を着ます。これは立役も同じです。

もっとも、「賀の祝」の桜丸などのように、貧乏人とは思えないほど美化されたものもありますが、これが歌舞伎の美意識というもので、原則的には、この衣裳を着ている役は貧乏人と思ってよいのです。

花魁

花魁の衣裳は、帯を前に締めているのが特徴的です。ちなみに、遊女に限らず、帯を前に締めているということは、炊事・洗濯・掃除などをしない身分の女性であることを意味します。

「助六」の傾城揚巻は、伊達兵庫の鬘に十八本の簪と三本の櫛をさし、黒繻子に松竹梅や〆飾りなどの正月模様を金糸銀糸で織り出した厚い裲襠をかけ、鯉の滝のぼりを描いた俎板帯を前に垂らして、助六と好一対の贅沢なファッションを見せています。

こういう光景を見ると、廓の経済を支えていた江戸の大商人がどれだけの大きな力を持っていたか、その実力のほどが想像できるような気さえします。

現在の弁天小僧の衣裳の由来

正しくは女性ではありませんが、「白浪五人男」の弁天小僧の衣裳も印象的です。
この衣裳は、ある日両国橋を渡っていたとき、美貌の若者が女の長い着物を着てぶらぶら歩いてきたのを見た黙阿弥が、こんな格好の弁天小僧をやったらどうかと豊国に話したら、それが芝居にならないうちに豊国が錦絵にしてしまったところに由来していると言われています。

その錦絵は、当時十九歳の十三代目市村羽左衛門(のちの五代目尾上菊五郎)扮する弁天小僧が、緋縮緬の長襦袢を着て、横に崩れた島田髷に緋鹿子の切れがかかっており、解き荷へ腰を掛け、抜身の刀を畳へ突き刺し、銚子で酒を呑んでいる絵だったといいます。

衣裳一つで物語の背景が見える

このように、衣裳を見るだけでその役の身分や職業、経済力や生活環境などまでがすぐ分かるのも歌舞伎の面白さの一つです。知っていると、歌舞伎を何倍も楽しめること間違いなしです。