中国と日本の宝尽くし

着物の文様の一つに「宝尽くし」というものがあります。

おめでたいのと同時に楽しげなこの宝尽くしは、中国で生まれました。

中国の宝尽くし

宝尽くしは、中国では宝珠(貴重な珠)、分銅(おもり)、雲珠(珠の形の雲)、丁子(クローブ)、金嚢(黄金で満たされた袋)、宝巻(貴重な巻物)、七宝、角違い(四角が重なったもの)の八宝等々でした。

丁子つまりクローブは丁香ともいい、香辛料としてなじみ深いのですが、かつては薬でもあり、人間の体に重要な役割を果たしていた宝でした。宝巻とは巻物のことで、高い知識の象徴です。

七宝とは、5つの輪を組み合わせたときに4つの角にできる輪を「四方だすき」または「十方」といい、それがシッポウとなったといわれています。これは、宇宙の基本的な5つの要素が組み合わさった、豊かさの象徴だったのです。

「名物裂」にも宝尽くしが

中国から輸入された「名物裂」にも宝尽くしが見られます。名物裂とは海外から入った貴重な裂のことで、茶の湯で使われました。

その名物裂の中でも、明の時代に作られた宝尽くしの布が「伊予簾緞子」といわれるものです。江戸時代の茶人・小堀遠州が「伊予簾」という名の茶入の袋に使っていたため、このように呼ばれました。

この布には、大柄の縞と金糸の石畳文様とが文様織りされていて、そこに八宝がやはり金糸で織り込まれています。

民話が反映された日本の宝尽くし

その中国の宝尽くしが日本に入ってきたわけですが、日本の宝尽くしは中国のものとはずいぶん違います。

例えば、打てば望みのものが出てくる打出の小槌(魔法の槌)、着ると自分の姿が消える隠れ蓑、被ると姿が消える隠れ笠、鍵、方勝(首飾り)、金嚢(巾着)、七宝、丁子、蓮華といったものが日本の宝です。宝尽くしはアジア共有の文様ですが、日本では民話がそこに反映されて打出の小槌や隠れ蓑が加わり、日本化されたのです。

日本の宝尽くしは、打出の小槌、隠れ蓑、隠れ笠の3点が特徴で、とりわけ目立つように大きく文様化されていますが、これらは中国の宝尽くしには決して出てこないものたちです。中国と共通しているのは、巾着、丁子(先のとがった筒のような形)、宝珠(栗のような形。炎が立ち上がっている形が多い)、七宝です。

ときにはアレンジも加わる

しかし、江戸時代の松竹桐鶴亀の間には、隠れ蓑、隠れ笠、打出の小槌、丁子、宝珠、巾着、鍵(取っ手にかぎ型の棒がついたもの)といった日本の宝が配置されています。また、隠れ蓑、隠れ笠、打出の小槌の3点に巾着、宝珠を加え、さらに七宝、分銅(くびれたところに玉を抱えた形)、宝巻という中国的な要素を加えて八宝にしたものもあります。

このように、隠れ蓑、隠れ笠、打出の小槌を中心に組み合わされる宝尽くしは、江戸時代の着物にずっと引き継がれてゆくのですが、そこに桐の代わりに梅が加えられたり、亀甲や曲玉が加われたりすることもありました。

吉原の遊女も着ていた

また、ときには宝が1つだけ文様になることもあります。山東京伝が「吉原傾城新美人合自筆鏡」で描いた花魁は、大きな宝珠だけを散らした豪奢な打ち掛けを羽織り、2人の禿が同じ文様の振袖を着ています。

遊郭は都市の季節を司る一種の聖地であるため、遊女が吉祥をまとうことによって吉を呼ぶ役割を担っていたのです。

今ではあまり見られない

ただ、宝尽くし文様自体、江戸時代ではよく使われていましたが、残念ながら現代ではあまり目にしなくなりました。

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