白木屋の火事の真偽
日本の女性が着物の下にパンツ(ズロース)を履くようになったのは、ある事件がきっかけだったといわれていますが、一方で、そう断定するには若干不自然な点があるという見方もあるようです。
百貨店の火災
事件というのは、1932年(昭和7年)に東京日本橋の白木屋の火事のことです。この百貨店の火災で、当時まだ下着をつけていなかった女性たちが和服の裾を気にして飛び降りることができず、その結果多くの犠牲を生むことになったのをきっかけとして女性がパンツを履くようになった、というのがまことしやかに言い伝えられているエピソードです。
女性の尊厳か、命か
しかし、この説に異論を唱える人たちは、次のような疑問を抱いています。
- 命がかかっている場面で裾の乱れなど気にするだろうか?
- 裾の乱れが気になるくらいなら、とうの昔に裾を隠すものを着けていたのではないか?
つまり、女性がずっと下着をつけてこなかったのはそのほうが快適だったからで、そのためには多少見えてしまってもかまわないという認識があったからではないだろうか?今さら命がかかった場面で恥ずかしがるだろうか?と考えているのです。
実際の死因
しかし、ある調査によると、この白木屋の火災で亡くなった従業員の大部分の死因は、間違いなく飛び降りたことによるものだとも言われています。つまり、亡くなった従業員の大部分が「ロープが焼き切れた」「友人と一緒に死んだ」などと言われており、裾を気にして飛び降りられなかったということはないというのです。
ただ、火災後の記者会見で白木屋の幹部が、「いざ飛び降りなければならないというときに下着をつけていないと躊躇することもあるだろうから、今後女子従業員には下着をつけさせたい」というようなことを話し、その後実際にズロースの着用が広まっていった、ということはあったようです。
百貨店側の巧みな営業判断?
これらを考えると、裾を気にして云々という事実はなかったがこれを機にズロースの着用をという、百貨店側の安全対策と新製品導入の営業判断という意向もなきにしもあらずという感じですが、理由はともあれ、この1930年代から着物の下に西洋下着をつけるという習慣ができたのは間違いなさそうです。