羽織が粋に見えるのはなぜ?
肌寒い初冬。江戸時代ならこのとき、袷の2枚の布の間に真綿を縫い込み、それでも寒かったら着物を重ね着していました。
しかし、綿入れを着なくなった現代のこういった季節には、羽織が活躍します。羽織は実際に温かいだけでなく見た目にも暖を感じられ、しかも粋なものです。
深川芸者による男装
この「羽織姿=粋」というのは昔からよくいわれていますが、ではなぜ羽織は粋なイメージを見る人に与えるのでしょうか?
これは、羽織がもともとは男性の衣類だったところを、深川芸者が取り入れたという背景があるからです。当時、芸者による男装は粋なお洒落とされていました。つまり、江戸時代の女性はもともと羽織を着ていなかったのです。
男装は女性芸人の伝統
江戸時代の男性のお洒落といえば何といっても黒で、特に羽織は黒に限るといわれました。通常は黄八丈や渋い縞の上に黒の長い羽織をぞろりと着ますが、もっとお洒落な男性は黒い着物に黒い羽織を着ます。細面に白い肌、すっきりとした本田髷に黒装束というこのいでたちが、洗い上げたような男性を作り上げました。
深川芸者たちは、そんな男たちの粋な表情を自分のものにしたというわけなのです。女性の男装は、白拍子の昔から歌舞伎踊りに至るまで、女性芸人の伝統でした。結い上げた髪も、裃を取り入れた江戸小紋の着物も男装の結果です。江戸の粋はまず男のものですが、しかし女性の男装がそれを上回ったのです。
奥様方の衣装へと変化
明治以降、芸者でない一般の女性たちも当然のように羽織を着るようになりましたが、その中でも特に奥様方の衣装となっていきました。
これは、明治初期の政治家や官僚の妻たちに芸者出身者が多くいたことも一因かもしれません。
ただ、その羽織も今ではずいぶんすたれてしまいました。